ハイケム東京研究所 素材研究支所
所長 Tさん
ポリ乳酸(PLA)などの生分解性プラスチックの開発はハイケムにとって重点プロジェクトの一つだ。環境に優しいプラスチックは地球に優しい一方で、コストや物性の課題を抱えている。ハイケムでは営業と研究が一体となり、これらのプラスチックを一般に広く普及させるというミッションを掲げている。
2020年には、ポリ乳酸(PLA)などの生分解性プラスチックの市場開拓をスタート。2022年9月には素材研究支所を新たに立ち上げ、生分解性プラスチックの性能向上および応用開発が社内で実装できる体制を構築した。
このインタビューでは、研究者、営業の開発担当者に実務や仕事に懸ける思いについてのお話を伺った。未来を担う次世代の樹脂開発プロジェクトに興味を持つ皆さんには、ぜひご一読いただきたい内容だ。
研究
ハイケム東京研究所 素材研究支所
所長 Tさん
素材研究支所
Kさん
素材研究支所
Xさん
営業
サステナベーション本部
ファッション・アパレル部
プロダクトマネージャー Fさん
貿易本部 機能性ポリマー部
Rさん
― ハイケムではポリ乳酸(PLA)などの生分解性プラスチックの市場開拓を2020年から進めていますが、営業サイドからみた進捗状況を教えてください。
R ポリ乳酸(PLA)の市場開拓についてはまだ途中段階ですが、環境対応を進める各業界からの問い合わせが増え、少しずつですが採用実績も積み上がってきています。日本ではプラスチックごみの回収が進んでおり、生分解性プラスチックの採用状況は中国などの諸外国に比べると緩やかですが、バイオマス由来の材料に対する関心は高まっており、市場開拓の潜在力があると感じています。
F 繊維業界では、ハイケムの生分解性プラスチック事業は、知名度が上がり、業界内での評価も高まっています。2023年の春夏シーズンでは、14ブランドからポリ乳酸(PLA)の自社ブランド「ハイラクト®」を採用いただき、店頭などでの商品展開を行っています。このような評価と広がりは、ハイケムの取り組みの成果と言えるでしょう。業界内での認知度の向上と共に、市場開拓の成功に期待が寄せられています。
― ポリ乳酸(PLA)の市場開拓においてハイケムに寄せられる期待は?
R ポリ乳酸(PLA)を営業していて、市場からハイケムに寄せられる期待はコスト低減と樹脂の高機能化です。
まずコストについては、現在のポリ乳酸(PLA)の生産量は世界で約3~40万トン程度ですが、汎用プラスチックの生産量は数千万トンに上ります。将来的にはハイケムの協力先メーカーにおいて、100万トン級のポリ乳酸(PLA)樹脂を生産する計画も進んでおり、コスト低減に対する期待が高まっています。
また、ポリ乳酸(PLA)は環境に優しい素材ですが、耐熱性など、成形時の問題点があります。耐熱性の向上や新たな用途開発には改質や添加剤の研究開発が欠かせません。ハイケムが行う研究開発に対して市場から寄せられる期待は大きいです。
― 2022年に素材研究支所が新設されました。研究内容を教えてください。
T 素材研究支所では、生分解性プラスチックの性能向上や応用開発に取り組んでいます。また、海洋生分解性を有する樹脂の用途開発や、生分解性樹脂のコンパウンドにも取り組んでいます。
X ポリ乳酸(PLA)の研究開発は持続可能な素材開発の観点から非常に興味深い研究です。プロセス自体が環境に優しく、バイオプラスチックの需要が高まっている現在において、その可能性は非常に大きいと感じています。
― 研究室の皆さんにお伺いします。ハイケムで研究する上でのやりがいは?
K 研究室では、転職してこられた方が多く、それぞれが異なる仕事をしているため、困ったことがあっても多様な視点や意見をもらえるので面白いですね。また、社外との協力プロジェクトも多く、様々な情報が入ってくるため、広い視点で物事をとらえることができます。
また、ハイケムの研究所では中国人の研究者が多いことも面白い点ですね。日々、皆で率直に意見を出し合うのですが、常に前向きでさっぱりした雰囲気があると思います。
X ハイケムでは、生分解性プラスチックの研究は新しい取り組みですので、一定の分野においては、私が最も専門家となる場合が多々あります。前職ではずっと学ぶ立場でしたが、今は教える立場にいます。人に教えることは得意ではありませんでしたが、この経験は自分にとってプラスになっていると思います。特に自分で開発した測定方法をチームで共有することは、新たな課題の解決や問題解決に貢献するうれしさを感じながら、同僚に教えることで業務の均一化につなげることができます。
T 生分解性プラスチックの研究はまさに、ハイケムにとって新規ビジネスなので、研究のための機械も設備もない、まったくのゼロからのスタートでした。新しい研究所に、装置を設置してそれが実際に動き、試作に成功した時は本当に嬉しかったですね。ハイケムに入って、一番の経験だったと思います。
K そうですね。新しいプロジェクトを始めるために、素材研究支所を作って、そこに機械を入れるところを目の当たりにし、 さらにその設備も整って、これから装置を動かすぞっていうタイミングは、やっぱりすごく感動しましたね。本当に今からプロジェクトが始まるんだなっていう瞬間に立ち会うことができました。
― 営業にとって、自社に研究施設があることの強みは何だと思いますか?
R 社内には幅広い専門知識を持つ人材がそろっていて研究施設も整っていることは商社としては珍しいです。これらの知見を活かして開発を進め、ポリ乳酸(PLA)に付加価値を加えることで次世代の製品開発に取り組んでいます。これらの取り組みは顧客への提案時において他社との差別化につながっていると考えています。
F そうですね。また、我々のような営業担当もが社内にいることで、自ら用途開発を行い顧客に紹介したり、サプライチェーンの中でパートナーを見つけて世の中に発表するなど、独自の手法で新規ビジネスを展開することができているのも面白い点です。
― 今後のポリ乳酸(PLA)の市場開拓と研究開発の方向性を教えてください。
F 我々としては、石油由来の合成繊維をポリ乳酸(PLA)繊維に置き換えていきたい。そのためにも今後はヨーロッパのメゾンブランドにアプローチしていきたいと考えています。ヨーロッパは環境対応に対してすごく敏感な地域として知られていますが、ポリ乳酸(PLA)は、まだ認知度が低く彼らにとって未知の繊維です。ですから、Made in Japanの素材として受け入れられる素地は大きいと思います。
また、ヨーロッパのブランドに展開することで、日本や中国のマーケットにおいて、さらに多くのブランドに採用していただき、素材としての認知度を広げていきたいです。
R ポリ乳酸(PLA)は今一番、世の中で使われている生分解性プラスチックですので、積極的に取り組んでいます。しかし、他の環境対応樹脂にも注力していきたいと考えています。海洋生分解性を有する樹脂やバイオ由来のプラスチックなどについても、研究施設を自社で持つことで広がる選択肢が出てくるのではないかと思います。
T 化学、特に、高分子ポリマーというのは、組み合わせ次第で様々な化合物を作り出すことができ、まさに子供の頃に遊んだレゴのようなものです。
是非、そういう意欲のある研究者の方々には、ハイケムのチームに加わっていただきたいです。
高分子量PLA